いつ乗っても混雑していて、座席のカドになっている部分に当たって骨にヒビが入ったなどという怖い話を聞いたりもする東海道線の東京口ですが、電車が走り始めたのは日本が敗戦による荒廃から再起しつつあった1950年〈昭和25年〉のことです。
投入されたのは写真の80系電車で、電車を中・長距離輸送に使用するのは初めてであり、設計と初期故障への対応に国鉄の技術陣はたいへんな苦労をはらったそうです。80系電車の登場までは中・長距離輸送には客車を用いるのが一般的でした。80系も客車を電車にしたようなスタイルをしています。
現代のE231系などのカラー帯にも継承されている「湘南色」も80系が初めて採用したものです。オレンジはみかん、グリーンは茶の葉の色という東海道線沿線の物産を表現したものとも云われていますが、遠方からの識別を容易にするという実用的な理由で採用されたようです。
写真のクハ86001号は1950年2月に日立製作所で完成し、田町電車区に新製配置されました。その後岡山、広島、下関地区に転用され、1977年11月に廃車されました。現在では大阪環状線弁天町駅を最寄り駅とする交通科学博物館で展示されています。
【撮影:佐野次郎 1992.1.14】